1.マーケティングの定義
マーケティングの定義
マーケティングを学ぶにあたり、そもそもマーケティングとは何でしょう?
ここではいったん「マーケティング」=「売れるしくみ」としましょう。
実際には、マーケティングは以下のように定義されています。
アメリカマーケティング協会(2007年)
マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである。
フィリップ・コトラー
マーケティングとは、個人や集団が、製品および価値の創造と交換を通じて、そのニーズやウォンツを満たす社会的・管理的プロセスである。
ピーター・ドラッカー
マーケティングの究極の目標は、セリング(売り込み)を不要にすることだ
セオドア・レビット
マーケティングとは、顧客の創造である
(ドラッカーの「事業の目的」と酷似)
2.SellingとMarketingの違い
マーケティングとよく似た言葉でセリングという言葉がありますが、どのように違うのでしょうか?
「セリング」というのは、「売る仕組み」のこと。バリューチェーンでいえば販売・物流・サービスの各工程を効率よく機能させ販売促進を図ることを目的とします。
それに対し、「マーケティング」というのは「売れるしくみ」のこと。バリューチェーンでいえば、企画・開発段階から購買物流・製造等の全工程において顧客価値の実現のために行う全社活動のことをいい、「売る努力をしなくても、顧客が支持して購入していただける」レベルの活動をいう。
いわゆる「ほっといても売れる」ということです。
2.マーケティングの種類
a) メーカーのマーケティング
①消費財メーカーのマーケティング
②生産財メーカーのマーケティング
b) 流通業者のマーケティング
①卸売業のマーケティング
②小売業のマーケティング
c) サービス業のマーケティング
①エクスターナル・マーケティング
②インターナル・マーケティング
3. 消費財と生産財
今回はBtoB/BtoCのマーケティングを説明しますので、「メーカーのマーケティング」に沿って説明をします。
よく「BtoC」とか「BtoB」という言葉を耳にしますが、一般消費者相手のビジネスがBtoC(Buisiness To Consumer)で会社等の中間消費者を相手にするビジネスをBtoB(Business To Business)といいます。
4. マーケティング・コンセプトの変遷
①生産志向
十分な需要があり圧倒的に供給が不足している時代の考え方です。モノを作れば売れる時代のマーケティング・コンセプトといえます。
人々の所得が高まるにつれ物質的な充足感を求めて、様々なモノを求めるようになりました。企業側は「作れば売れる」状況ですから、事業を拡大し、生産能力を高め、より多くの製品を供給することが時代の使命になりました。
一方、中には粗悪品による消費者被害も発生し、企業モラルが問われる時代でもありました。
①製品志向
顧客に対しより良い製品をより安く提供しようとするコンセプトです。
このコンセプトでは、「顧客は、品質・性能・技術等に優れた製品を求めている」という考えでマーケティングを考えており、「優れた製品を顧客に提供すれば、顧客から支持を得られ、ビジネスの成功につながる」と考えます。
したがって、企業行動は「製品の改良」「技術的に優れた製品開発」等に重点が注がれます。技術レベルの高い企業や職人気質の強い風土の企業では、こうした傾向が強くなります。
需要が供給を上回っている市場や顧客ロイヤリティの高い製品では、有効なコンセプトになります。
ただし、自社製品至上主義が強すぎると、自社の製品の改善や性能向上に注力するあまり、顧客が必要としている本来の目的や機能から離れて独善的な製品開発を進めるリスクがあります。顧客は製品を求めているのではなく、製品が提供する機能や使用目的なのです。
参考:「レビットの穴」
②販売志向
需要が供給を上回る時代から、次第に製品の供給能力が高まることにより、需要以上の供給が提供され厳しい競争環境にさらされる市場環境になると、自社の製品をいかにして顧客に販売するのか?といったことが重要なテーマになってきました。
顧客に対して、自社製品を販売するために「売り込み方法の追及」「プロモーション方法」等の技術的な追及が重要なコンセプトになります。
ただし、販売テクニックを追求するあまり顧客ニーズや顧客との関係性を軽んじることはないか注意が必要です。顧客が求める価値に重点を置き、顧客との長期的関係性を築く配慮が必要です。
③顧客志向
顧客(標的市場)の本質的なニーズを探り、そのニーズを実現するために製品を提供し続けるというコンセプトです。マーケティングの目的は、販売活動を不要にすることですから、顧客が求める価値を提供し続けることが重要です。
「顧客が求める価値」とは、製品を通じて実現される顧客の目的のことで、機能であったり使用目的であったりします。
「レビットの穴」で説明しましたが、顧客は1/4インチのドリルが欲しいのではなく、1/4インチのドリルを使用して「開ける穴」が欲しかったのです。
「穴」という機能に注目すれば、ドリル以外にも市場の可能性が広がってきます。ドリルのいらない組み立て式の家具やあらかじめ穴の開いた木材等、様々な可能性が広がってきます。
ドリルが売れるからと言って、ドリル(製品)の改善や性能の向上ばかりに注力すれば、顧客のニーズから離れてしまう可能性もあります。かつて、日本の携帯電話がガラパゴス化しているといわれたのは、日本独自の進化や高度な機能の追加により、製品の性能ばかり追いかけ、顧客ニーズから離れてしまったのかもしれません。
生産志向 | 製品志向 | 販売指向 | 顧客志向 | |
アメリカ | 産業革命 ~ 1940年頃 | 1940年頃 ~ 1960年頃 | 1950年頃 ~ 1970年頃 | 1960年頃 ~ 1990年代 ~ 現代 |
日本 | 明治維新 ~ 1950年代 | 1960年代 ~ | 1960年代 ~ 現在 | 1980年後半 ~ 現代 |
基本思考 | 十分な需要があり、モノを作れば売れる | 良いモノをより安く作れば売れる | モノを売るための技術を磨けば、売れる | 顧客ニーズに合ったモノを作れば売れる |
5.コトラーのマーケティング 3.0
フィリップ・コトラーは、マーケティング・コンセプトを次のように定義しています。
①マーケティング 1.0
マーケティ 1.0 は、マスマーケティングの時代のマーケティングです。いわゆる「製品志向のマーケティング」のことで、需要が供給を上回る経済環境下では、圧倒的に物資が不足しており、「作れば売れる」状態でした。
このような状況では、大量生産・大量販売が主流で顧客に対し、同一規格の製品を大量に安く提供することが企業側の使命でした。
アメリカにおける「T型フォード」の生産・販売や日本における「水道哲学」(松下幸之助の理念)は、マスマーケティングの時代を表す代表的な企業戦略です。
②マーケティング 2.0
マーケティング 2.0 は、供給が需要を上回る時代において、いかにして顧客に支持される製品を提供し続けられるかという問題に対処するため、「顧客志向のマーケティング」が発展しました。
一般的に「S・T・Pマーケティング」と呼ばれ、「S:市場の細分化」「T:標的市場の明確化」「P:自社製品のポジショニング(差別化)」をマーケティングの基本として顧客開拓を進めました。
③マーケティング 3.0
マーケティング 3.0 は、「価値基準マーケティング」と言われます。顧客の価値観が大きく変わり、自分自身の価値観によって購買行動を起こすだけでなく、「地球温暖化」「社会的貧困問題」等の社会的課題の解決に向けた企業貢献に共感して購買行動を起こすといった「社会的価値の共有化」が重要だとコトラーは言います。
SNSが発達することにより製品ストーリーや企業の社会的貢献が発信されるようになると価値観が共有化され集団的購買行動へと展開されるのです。
④そして時代は、マーケティング 4.0 へ
マーケティング4.0は、「自己実現マーケティング」と言われます。「自己実現」という概念は、マズローの欲求5段階説からきており、物質的・精神的欲求が満たされた後は、自己実現の欲求になるというものです。製品を機能や価値で選ぶのではなく、製品を使うことによって自分がどのように成長できるのかが重要になってきています。
6. マーケティング・プロセス
マーケティング・プロセスは、次のステップを踏んで実施されます。
今回の説明は、「マーケティング2.0」のステップを説明します。
① 内外の環境分析と競合分析
② 市場の細分化(Segmentation)
③ 標的市場の抽出(Targeting)
④ 標的市場における自社製品の差別化戦略(Positioning)
⑤ マーケティング・ミックス(4P)により具体的な活動の実施
⑥ 各プロセスの評価とフィードバック
⑦ マーケティング活動と評価
6-① 内外環境分析と競合分析
マーケティング・プロセスの最初のステップは、現状の把握です。自社を取り巻く環境の分析と競合の分析は欠かせません。
1)内外の環境分析
内外の環境分析は、
・ PEST分析
・ 3C分析
・ SWOT分析
等のフレームワークを使用します。
「PEST分析」は、企業を取り巻く4つの要因「P:Politics:政治的要因」「E:Economy:経済的要因」「S:Society:社会的要因」「T:Technorogy:技術的要因」についてマクロ的な分析を行うフレームワークです。
マクロ的な外的要因の分析手法ですが、ややもすると外部環境の羅列になってしまうことがありますので、目的性を重視して分析を進めましょう。
今起こっている環境変化や今後起こりうる環境変化が自社のビジネスにどのように影響を及ぼすのかといった自社ビジネスとの関係性を考えながら分析を進めることが大切です。
詳細は、「PEST分析」参照
「3C分析」は、自社を取り巻く環境を「C:Customer:市場」「C:competitor:競合」「C:Compmny:自社」の3要素に分け、市場分析・競合分析・自社分析を行いながら自社の主要成功要因(KSF:Key Success Factor)を探ることが目的です。
詳細は、「3C分析」参照
「SWOT分析」は、「内部環境分析」を通じて自社の「S:Strength:強み」と「W:Weakness:弱み」を客観的に把握しながら、「外部環境分析」で自社を取巻く環境変化が自社のビジネスに「O:Opportunity:機会」となるか「T:Threat:脅威」となるか推論します。
SWOT分析は、外部環境の変化による自社のビジネス機会に対し、自社の強みを発揮することにより、ビジネスチャンスを獲得することを主目的とします。
SWTO分析は、環境分析として普及しておりますが、分析のための分析に終始して本来の目的性を失っている場合が多く見受けられます。
内部環境分析における「強み」「弱み」という概念は、相対的なもので「誰に対して強いのか?、弱いのか?」といった考察が重要です。自社が競合としてターゲットとする競合先に対し「強いか?弱いか?」という観点で考えなければ良い戦略は出てきません。
また、「外部環境分析」についても、漫然と自社を取巻く環境を羅列しても意味がありません。自社を取巻く環境変化(もしくは、今後起こりうる環境変化)が自社のビジネスに対しどのようなインパクトを及ぼすのか推論が重要です。さらに、自社が特定の企業取引に依存している場合、販売先企業が抱える環境変化もよく分析する必要があります。
詳細は、「SWTO分析」参照
2)競合分析
競合分析は、
・ ファイブ・フォース分析
・ SWOT分析
を使用します。
「ファイブ・フォース分析」は、マイケル・E・ポータが提唱した業界の構造を5つの競争要因によって分析するフレームワークです。
5つの競争要因のことを「ファイブ・フォース:5つの力」と言います。
「ファイブ・フォース」とは、①新規参入者の障壁、②代替品の脅威、③売り手の(供給業者)交渉力、④買い手(販売先)の交渉力、⑤自社を取巻く競合間の競争のことを指します。
ポーターは、競争関係を単なる競合間の競争ではなく、業界内で様々な競争関係があることを示しました。
「5フォース分析」を使用すれば、業界の魅力度と競争状況を把握することができます。自社が所属する「業界の魅力度」を客観的に考察することができるとともに、今後の環境変化によって競争状況がどのように変化するのか?将来リスクを測る上でも有力なフレームワークです。
詳細は、「ファイブ・フォース分析」参照
結果として、分析から何を読みとるのかというのが重要です。
今後の環境変化に対応するため、自社がどのようなシナリオを描いてビジネスを広げていくのか?
あるいは、自社の持てる力を環境変化に対し、いかに有効に発揮するのか?
また、どのようにビジネスを展開すれば競合他社に対し、有利なビジネスを進めることができるのか?
といったことを念頭に分析することが大切です。
6-② 市場の細分化(Segmentation)
一般的に、市場には競合他社が多数存在しており、また市場には様々なニーズを持った顧客(ユーザー)が存在しております。
そうした環境下で自社のビジネスを優位に展開できる市場を見つけることが重要です。あるいは、ビジネスを優位に展開するための市場占有ストーリーを描くことが必要です。
そのためには、市場を様々な切り口で細分化し、自社にとって優位な市場を抽出します。
細分化に当たっては、一般的に類似の購買行動を持った集団に細分化します。
また、市場分析の切り口には、「年齢」「性別」「居住地域」「年収」「消費行動」といったものから、縦軸・横軸に複数の切り口を定めマトリックス分析によって市場を細分化する方法もあります。
詳細は、「Segmentation」参照
6-③ 標的市場の抽出(Targeting)
市場の細分化ができれば、自社が進出すべき標的市場(Target)を定めます。
自社の企業力・製品等が有利に受け入れられる市場を定めるのです。
標的市場をニッチな市場にするのか?、複数の市場にするのか?等、収益性・効果性等を考えながら決定していきます。
もし、適当な市場が見たからない場合は、もう一度「市場の細分化」に戻って、再検討していきましょう。
詳細は、「Targeting」参照
6-④ 標的市場における自社製品の差別化戦略(Positioning)
標的市場が決まれば標的市場で自社製品を顧客に訴求する必要があります。標的市場が競合のいないブルーオーシャンであればよいのですが、現実的には競合他社との競争関係を余儀なくされる場合がほとんどです。
そこで重要なのが、標的市場における自社製品のポジショニングです。
ポジショニングとは、標的市場において、自社製品と競合製品を差別化して、優位な地位を気づくための手法です。
顧客から圧倒的に支持される自社製品の特長があれば素晴らしいことです。顧客が何に価値を置き喜びを感じるのか?ということを徹底的に調査し分析し、他社にない特徴(差別化)が実現できればしめたものです。
詳細は、「Positioning」参照
6-⑤ マーケティング・ミックス(4P)により具体的な活動の実施
「4P」フレームワークは、アメリカのマーケティング学者 E.J.マッカーシーが1960年に提唱したフレームワークです。
「4P」フレームワークを利用することで、顧客に対し自社の製品をどのように訴求するのか総合的に検討することができます。
4Pとは、
「製品(Product)」
「価格(Price)」
「流通(Place)」
「プロモーション(Promotion)」
のことで、この4つの要素を組み合わせて売り上げアップにつながる施策を展開します。こうした一連の作業をマーケティング・ミックスと呼んでいます。
詳細は、「マーケティングの4P」参照
6-⑥ 各プロセスの評価とフィードバック
6-①~⑤のプロセスを進めるにあたり、ややもすると本来の目的を忘れて、個別議論に走る場合があります。こうした議論を重ねるといつの間にか顧客志向から離れ、気が付いたら顧客ニーズからかけ離れた戦略を立てていたなんてこともあります。
各プロセスを進めるにあたり、最終目的に合致した議論がなされているのかよくチェックすることが必要です。各プロセスから導き出せる分析結果は、あくまでも「仮設」に過ぎず「正解」ではない。実行して初めて「仮設」が「実証」されます。
分析のための分析になったり、分析しやすい方法を選択したりして、誤った方策にたどりつくことは、検討段階で素早く軌道修正しなければなりません。
したがって、各プロセスを検討しながら「目的に照らし合わせて、何か変だな?」と思ったら前工程に躊躇なくフィードバックしながら、目的性を失わないよう配慮しなければなりません。
また、各プロセスの検討は戦略策定メンバー全員が意見を出しながら進めていく必要があります。役職上位者の意見に従ったり、大きな声を出すメンバーに追従するなど決してあってはなりません。
皆さんは、「アベリーン・パラドックス」言うのをご存じでしょうか?
集団は、メンバー一人ひとりが自由闊達な意見を交わさなければ、集団としての意思決定を誤るという提言です。
<アベリーン・パラドックス>
参考:Wikipedia、HP資料
集団において、明確なコミニュケーションがなされない場合、「自分の意見は、全体の意見と異なっている」と思い込み、集団に対し意を唱えず、集団は誤った結論を出してしまうという現象。
このパラドックスは、経営学者ジェリー・B・ハーベイの著書「アベリーンのパラドックスと経営に関する省察」で提言したもの。
要旨
ある8月の暑い日、家族が、食事をどこでと摂ろうかと相談していた。義父が「隣町にレストランができたそうだね」と53マイル(約85Km)離れたアベリーンでの食事を提案した。誰も行きたくなかったが、気を使ってか誰も反対することなく「皆、アベリーンに行きたがっている」と思い込み、アベリーンへ食事に行くことになった。
ところが、道中は暑く、埃っぽく快適なドライブではなかった。食事もひどいもので誰も満足のいくものではなかった。帰りは、砂嵐のためか時間はかかるし、疲れるしひどいものであった。
帰宅して、誰ともなく「なんでこんな日にアベリーンへ食事なんか?」とクレームを言い出した。だが、現実は全員同意してアベリーンに行ったのだ。
このように「集団の同意」からも意思決定の問題が発生するのだ。
⑦ マーケティング活動と評価
マーケティング活動を実施するためには、
1)マーケティング計画を強力に推進するためのチームの編成が必要です。
チームの編成のためには、プロジェクト・オーナーとプロジェクト・マネージャーの存在が重要です。
プロジェクト・オーナーは、マーケティング計画に精通した役員クラスが望ましく、間違っても名ばかり責任者では環境変化に素早く対応することができず、成果を刈り取ることができません。プロジェクト・マネージャーは、部長クラスが望ましく下位に現場に精通したプロジェクト・リーダー(課長職クラス)を任命する必要があります。この3階層がしっかりしていると、チームは安心して目的にまい進できます。
詳細は、「チーム・ビルディング」参照
2)タックマンモデル
マーケティング計画を実行するためには、チーム一体となって強力に計画を推進する必要があります。
そのためには、チームの状態を把握したうえで